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BUSINESS TIPS

心理学から読み解く防災行動

島崎 敢氏講演聴講の備忘録

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1.パニック神話と正常バイアス
パニックの都市伝説となった1983年のラジオドラマ「宇宙戦争」
実際はそれほどパニックでもなかった。 災害そのものよりも人々のパニックの方が怖い。

パニックが起きる条件
・危機が差し迫っている
・助かる可能性はあるが保証はない
・競争性が認知されている
・組織構造、コミュニケーション、訓練等が欠如している
(自然災害ではパニックの条件はめったに揃わない)

正常性バイアス
ストレス回避のために危機的状況でない証拠を探そうとする防衛機能
「以前も平気だった」
「何かの間違いかもしれない」
「偉い人が大丈夫だと言っている」
「隣の人もまだ慌てていない」
(人数が増えると認知時間は早まるが、反応時間は遅くなる)

繰り返される正常性バイアス
1982年 長崎大水害 1995年 地下鉄サリン事件 2011年 大川小学校 2014年 セウォル号沈没事故 2018年 西日本豪雨
正常性バイアスのせいで逃げ遅れてしまう事例は、パニックで大変なことになった事例よりもずっと多い。


2.オペラント条件づけ(学習心理学)と行動適応
心理学者 スキナー理論提唱
ある行動をした結果、環境がどう変化したかを経験することによって、環境に適応するような行動を学習すること。 
 

スキナー箱の実験

レバーを押せば餌が出る、という経験を繰り返すことで自発的にレバーを押すようになる行動をオペラント条件づけという。

行動 結果 行動頻度
レバーを押す 餌が出る(+) 増加
レバーを押す 電気が流れしびれる(-) 減少
防災行動 避難所に行く 何も起きなかった(-) もう行くのは止めよう
防災行動 避難所に行く 被害に遭わなくてすむ また避難しようは 稀

災害の発生頻度は極めて低いので、防災行動は(+)の結果が得られず行動頻度の減少(-)にさらされている。


3.情報の二重処理

人間の情報処理は、直感的な回路(古い脳)と理論的な回路(新しい脳)両方で行なわれる。 古い脳の方が高速で労力が低く、多くの場合優位。(そのことはあまり意識されない)うまく人を動かしたい場合には、直感的な回路に訴えるような情報発信が有功。

A) 世界では年間○○万人の子どもたちが飢餓のために
亡くなっています。
子どもたちのために
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B) ○○チャンを救って下さい
寄付をお願いします。

重大性 A>B  寄付金額 A<B
研究者が発信する科学的な情報<災害者の経験談や歴史の伝承
役所からの無機質な避難情報<心配してくれる近所の人や孫
1時間に○○ミリの雨<


4.想像力とリスク認知

緊急事態
・非日常的である ・予想外で当然起きる ・結果が重大である ・当事者が対処しなければならない

緊急時の行動特徴
・過剰に緊張する ・注意が一点に集中する ・他の選択肢を考えられなくなる・判断力が低下する 
・無意味な操作を繰り返す

人間のエラー率
・一般的な実行エラー確立:1/100 ・一般的な省略エラー確立:1/300
・極度の緊張状態でのご操作(最初の5分間):9/10
・極度の緊張状態でのご操作(最初の30分間):1/10
いざという時には判断力が低下するので、事前にどうするかを考えておくことが重要

・人間は知識や経験があるから目の前で起きていることを理解できる
・状況が理解できなければ適切な行動はできない
・知識は見たり、聞いたり、考えたりすれば増えていく
(想像力は鍛えることができる)
・沢山の情報に触れ、想像することで、災害時に何が起きるかの想像力を身につけることが大切


5.災害を乗り切るために

・災害は地域によって起き方が全く違う(津波・土砂災害など)
・地域の事情も様々(都市と農村・高齢化・財政など)
・個人の事情も様々(家族構成・勤務地・住宅の種類など)
・災害の季節や時間帯によっても状況が変わる

計画やルールづくりの上で大事なこと
・計画作成は考えるきっかけ、関係づくりなどにはとても重要
・「想定できること」しか計画には載せられない
・想定外を想定内にする努力は重要
でも、想定外が」起きてしまうのが災害
・想定を超えてしまった時には、臨機応変に対処することが求められる
・よりどころになるのは「目的」とその共通認識

災害時に共有すべき目的
・自分の命を守る
・余裕があれば他の人の命を守る
・なるべく早く元の生活に戻る(自分も地域も)
・元の生活に戻るまでの間、なるべく快適に過ごす

熊本地震 (2016年)からの事例
詫麻原小学校 田中さんの例
・本震直後、津波が来るから一緒に逃げようと言う人の車に同乗して知らない避難所へ
・単身避難者の深夜の自己紹介
・声の小さい町内会長、新人の市の担当者
・話がうまいので仕切ってくれませんか?
・災害が終わったときに「被災した」ではなく「災害ボランティアをした」とみんなで言いませんか?(目的の共有)
・最初のボランティアは挨拶です、避難所で知らない人がいない状態を作りましょう
・次のボランティアはこの話を新しく避難所に入ってきた人に伝えること(低いハードル・全員への役割付与)
・今日の目的は、今日何も食べられなかった人を1人も出さないこと、そのためにみんなで工夫しましょう(思考の促し)

うまく行った事例
・海上保安庁
「国民の生命と財産を守る」隊員が個別判断で迅速に救助
・お弁当のヒライ
「我々は食のライフライン」社員が食料の継続供給に尽力
・チーム熊本
「困っている人に物資を運ぶ」SNSでボランティアを集め1000tを超える物資を輸送

イマイチの事例
・知事要請がないので出動できない
・学内は火気厳禁だし食中毒が出ると困るので炊き出し禁止
・トレーラーハウスは法律上は車だから仮設住宅にできない
・不公平なので仮設住宅のウォシュレットを撤去
・支援物資のおにぎりが避難者の人数分ないので廃棄

うまくいく組織
・目的が共有されている ・最前線に権限が移譲されている
・責任追及の文化がない(細かいことを言わない) ・誰かが腹をくくっている
・目的達成のために考え続けている

うまく行かない組織
・責任追及主義、マニュアル至上主義 ・ルールや平等性に対する過度の配慮
・責任を取らされないことばかり考えている


まとめ
1.パニックは滅多に起きず、正常性バイアスのために逃げ遅れる可能性がある
2.学習心理学と行動適応のメカニズムから考えれば、防災行動や避難行動は行なわれなくなるのが当たり前(と言う理屈を知ることが大切、インセンティブを与える工夫が必要)
3.人間の情報処理は論理的では無く直感的だが、無自覚(直感に訴える情報発信や声がけが必要)
4.危険を回避できるようになるには、知識や経験が必要なので、いつも想像してみることで想像力を身につける
5.計画やルールは大切だが、囚われすぎない柔軟さも大切、目的のために考え続ける姿勢を身につける


地球温暖化とかの影響なのか、自分が子どもの頃に比べて、台風や地震による災害が増えているように思う。 とかく人間関係が希薄な東京に暮らしていると、このマチを大きな災害が襲ったら果たして自分は家族は生き残れるのだろうか?
なんて不安に思う。 田中さんの避難所でのリーダーシップはいろいろ考えさせられた。 田中さんの経験を災害時、避難所で自分も活かせていけたらと思っている。

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